「ボトムズ」監督が語るアニメと戦争 異色の主人公生んだ二つの時代
聞き手・武田啓亮2025年11月12日 10時00分 朝日新聞
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アニメ監督の高橋良輔さん=2025年5月2日、東京都杉並区
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リアルロボットアニメの頂点――。放送から40年以上経つ今も、そう評される作品があります。「装甲騎兵ボトムズ」(1983年、日本サンライズ〈現バンダイナムコフィルムワークス〉)。パイロットごと使い捨て同然に運用される人型兵器を描き、「鉄の棺桶(かんおけ)」と称したリアリズムの背景にあったものは。太平洋戦争とベトナム戦争という二つの戦争が、自身の人生と作品に与えた影響とは。高橋良輔監督(82)に語ってもらいました。
■高橋良輔監督インタビュー
装甲騎兵ボトムズ
二つの星間国家が繰り広げた「100年戦争」終結後の世界。主人公キリコは戦時中、悪名高い特殊部隊に所属していた元兵士。戦争末期に軍の最高機密を目撃し、追われる身となったキリコ。軍の追跡から逃げる旅路の中で仲間と出会い、戦争で失った人間性を少しずつ取り戻していく。1983年放送(全52話)。
――ボトムズに登場する「AT(アーマードトルーパー)」は装甲が薄く、わずかな被弾で炎上してしまう。旧日本軍の戦闘機などを想起させます。意図した部分があるのでしょうか。
日本は戦車の装甲もペラペラでしたからね。結果的に似てしまったんです。
ボトムズの由来にもなっている、AT乗りを指す「最低野郎」(Bottomsのスラング)という言葉が先にあるんですよ。戦場になくてはならないんだけれども、一番危険なところにおいやられる存在。だから、「鉄の棺桶」といった表現で、これが人命を軽視した過酷な兵器なんだということを強調したかった。そうしていったら、結果的に似てしまった。
■「俺は神にだって従わない」
――主人公の元特殊部隊兵士、キリコが上官に「俺は神にだって従わない」と言ってのける場面が印象的です。軍で命令は絶対、なのに。
キリコというキャラクターを際立たせるために、少し極端なせりふを作るわけですけれど、根幹は僕の生い立ちにあります。陸軍の父がニューギニアで戦死して、我が家は母1人子1人、戦争寡婦だったことが底の底にある。
母はいちいち言わなかったけど、我が家の暮らしの根底にあるものは染み込んでくる。母は機織りの女工として働いていました。一般的には父親が働いて、母親が家事という時代。なんでなんだろう、と。
物心ついて、何かの拍子にふと思うのです。ああ、父ちゃんは天皇陛下の命令で戦地に行って、死んだんだ。一方で、母が言うように父の軍人恩給があるから暮らせているという一面もあるんだ、と。天皇を非難する気持ちがあるわけではないんです。それでも、誰かの命令で戦地に行ってその結果はもう取り返しがつかない。誰の命令でどう死んだか、正確なことはわからなかったのですが、当時の私はそう思っていました。そういう経験が、キリコらの言葉の端に出てくるのです。
――キリコが戦争の記憶で苦しむ場面があります。トラウマやPTSDという認識が一般的に広がるよりも早い時期に、それを描いていたように思います。
僕が早く目を向けたというより、そういう時代だった。
ベトナム戦争です。
1960年代から本格化し、終わったのが75年。有名な「地獄の黙示録」(フランシス・F・コッポラ監督)が79年ですからね。
そうした映画に先立って、報道の時代があった。なかでも影響を受けたのは、作家・開高健さんの「ベトナム戦記」ですね。写真家ではピュリツァー賞を取った沢田教一さん。ベトナム戦争ではジャーナリストがかなり自由に取材できて、成果がさまざまな形で社会に拡散された。そういう時代の影響だったのだろうと思います。
――生々しい戦場が報道されても、兵士個人の精神的な被害や、後の生活への影響が分かるのは、もう少し後ですよね。
そうですね。ただ、開高さんの著書では、従軍中に知り合った米軍の将兵の話を通じて、戦争で負った心の傷というものは各所ににじんではいましたね。「ベトナム戦記」のクライマックスは、200人ほどの部隊とともに行動して生き残りが17人しかいないという、戦場の怖さ。そういうものが、僕の体の中に入ってきている。
(※以上、無料部分から引用。)
